栃木県にとって浸水害は最も身近な災害の一つです。2019年10月に到来した台風19号で、多くの一戸建て住宅が浸水害を受けたことは記憶に新しいことと思います。
浸水害の対策は、堤防の整備などの社会資本整備を中心に取り組まれてきました。河川氾濫などによって浸水が生じなければ被害は皆無なわけですから、言うまでもなく社会資本整備は重要な施策の一つです。しかし残念なことに、河川氾濫などによって浸水する地域は全国に無数に存在しますので、堤防などによって全ての地域から浸水をなくすことが近い将来に現実的でないのも事実です。
このような視点を踏まえて、国の施策においても、社会資本整備のみに頼らず土地リスク情報の充実、浸水を前提とした建築物の被害軽減といった多層的な対策へと移行しています。

さて、ハザードマップ等から「浸水害を受ける可能性がある」ことを想定すると、浸水害を受けた場合に被害が小さく、復旧しやすい住宅に住まうことが重要です。浸水害の調査に伺うと、同じ浸水深さであっても個々の住宅ごとに復旧費用や手間が異なることに驚かされます。
このような違いは、住宅に使用される建築材料の種類や組み合わせ(工法)によって生じることがわかっています。例えば、断熱材として広く用いられるグラスウールは乾燥しにくく、浸水害を受けた場合には早期の除去・交換が必要ですが、同じ断熱材である押出法ポリスチレンフォームの場合、清掃を行えば交換なしに使用を継続できる場合もあります。床・壁・家具等のボード類、壁紙・フローリング・塗材などの仕上材料といった住宅に使用されるほぼすべての材料でこのような被害の違いがみられます。

また、材料の組み合わせ(工法)によっても、被害が異なることも分かっています。現在、宇都宮大では、このような材料・工法の違いが生じるメカニズムを研究しており、この研究成果に基づいて、被害が小さく復旧しやすい材料・工法を適切に選び、あるいは設計するための工務店向け、居住者向けのマニュアル作成に取り組んでいます。
研究成果の情報提供によって、栃木県内の住宅における浸水害が軽減されることを願っています。

◆藤本郷史准教授◆
宇都宮大地域デザイン科学部准教授。専門は建築材料学。浸水害を受けた戸建て住宅の被害を軽減できる建築材料・工法の選定・設計について研究している。日本建築学会マルチハザードに対応可能な耐複合災害建築小委員会、水害対策・復旧対応検討WG委員。