コロナ無料検査事業の申請書類。補助金交付に必要な「実績報告書」の記入項目は、検査件数や陽性者数など最低限のものだった

コロナ無料検査事業の申請書類。補助金交付に必要な「実績報告書」の記入項目は、検査件数や陽性者数など最低限のものだった

 新型コロナウイルスの無料検査事業で補助金の不正申請があったとして、栃木県が先月下旬、医療関連の2事業者に計約8385万円の返還命令を行った。同事業を巡る不正は全国で相次ぎ、埼玉県などでは業者が詐欺容疑で逮捕されている。不正が横行した背景には、パンデミック(世界的大流行)の中で対策を急ぎ、制度設計やチェックに甘さがあったとみられる。識者は検証の必要性を指摘する。

 「取引業者からの依頼で下請けで検査をしたが、(実際は)僕らが主体でやったことになっていた」。返還命令を受けた「メディトランセ」(東京都)の社長は取材にそう説明し、「業者の指示で、県から振り込まれたお金は業者に送金した」と語った。

 同社はJR宇都宮駅周辺の3カ所に検査所を開設し、約4730万円の補助金を受けた。県はこの全額の返還を求めている。

 宇都宮市南部で検査所を設けた「日本メディカルエステ協会」(埼玉県)には約3655万円を返還命令。いずれも期限は17日だが現時点で返還はない。同協会の弁護士は「県に不服申し立てをする予定」と主張する。

 県は昨年11月から調査を実施。検査の際に名前などを記入する「申込書」を両事業者に提出するよう求めたが、応じなかったことなどから事業が適正に行われなかったと判断した。

 無料検査事業は国が検討から3カ月後の2021年12月に実施要領を策定。都道府県が運用を担った。迅速な検査体制の拡充のため、手続きを簡略化。書類審査で、現地確認なども行われず登録となる仕組みだった。内閣感染症危機管理統括庁の担当者は「スピーディーな対応が求められた中での対応だった」と話す。

 県内では約100事業者が260拠点を開設。事業者が検査件数などを記入した「実績報告書」を県に提出し、これに基づき補助金を交付する。ただ、膨大な量で、県のチェックは「件数に不自然な点がないかなどの確認」(県感染症対策課)にとどまった。検査実績を裏付ける「申込書」も保管は義務付けたが、提出までは求めていなかった。

 同課担当者は「混乱状況の中、性善説に立つしかなかった。職員の数からも難しい」と当時のチェック体制の限界を明かした。

 コロナ関連では、雇用調整助成金や持続化給付金でも不正が相次いだ。非常事態とはいえ、不正の横行を防げなかったのか。政府の事業を検証する「行政レビュー」評価者を務める永久寿夫(ながひさとしお)名古屋商科大教授(経済学部)は「ある程度の不正が出るのは避けられなかっただろう」とした上で、「デジタル化が進んでいればマイナンバーカードとひも付けるなどしてチェック作業を簡略化できたはず。なぜ不正が起きたかの検証は必須で、今後に生かすべきだ」と話した。

 新型コロナウイルスの無料検査事業 希望者が無料でPCRなどの検査を受けられる事業。「感染対策と社会経済活動の両立」を図るため、2021年12月~23年5月に実施された。国の臨時交付金6200億円を財源に、都道府県が実務を担当。事業者には検査件数などの実績に応じて、補助金が交付された。県内の検査件数は計27万件に上り、計17億円の補助金が交付された。