ゲンジボタルの雄が光る周期は地域によって違うことをご存じだろうか。福井県を含む西日本は2秒に1回光る「2秒型」が定説らしい。「中池見湿地(福井県敦賀市樫曲)には珍しい3秒型がいるかもしれません」との投稿が、福井新聞の調査報道「ふくい特報班」(通称・ふく特)に寄せられた。定説を覆す発見への期待を胸に、ふく特取材班が調査に同行した。
投稿主は「福井県ホタルの会」会員の八木千才さん(66)=福井市。「以前、中池見湿地のゲンジボタルは3秒型と確認された」との情報があり、NPO法人「日本ホタル再生ねっと」理事長で元福井工大教授の草桶秀夫さん(72)=同=らと調査することになったという。八木さんは「ラムサール条約に登録され生物多様性を誇る中池見なら、あり得るのでは」と声を弾ませる。
境界域の一部に
全国各地のホタルを長年研究している草桶さんによると、ゲンジボタル雄が群れで飛ぶ際、ほかの個体と同調しながら発光する。発光周期には地域分布があり、フォッサマグナ地帯(新潟-長野-静岡県)を境に西日本は「2秒型」、東日本は4秒に1回の「4秒型」とされる。境界域の一部で珍しい3秒型も確認されているが、遺伝子レベルでみると2秒型か4秒型のいずれかに該当するらしい。草桶さんは「福井県内で3秒型が確認されれば、確かに新発見です」と教えてくれた。
6月7日夜、ホタルの名所として知られる福井市安居地区の観察会に参加し、予習することにした。安居公民館近くの未更毛(みさらげ)川で飛び交うゲンジボタルの発光頻度は60秒間で30回前後。典型的な2秒型だった。
同12日夜、中池見湿地の保全や活用に取り組むNPO法人「中池見ねっと」理事の藤野勇馬さん(28)に案内してもらい、クマよけの鈴を着けて湿地に入った。午後7時過ぎ、さまざまなカエルの鳴き声が響き、ヘイケボタルが不規則に小さな光を放つ。「そろそろ出てきますよ」と草桶さん。ホワリ、ホワリと大きめの光が飛び始めた。安居地区より数は少ないが確かにゲンジボタルだ。
60秒間に30回超
草桶さんらはストップウオッチを手に発光をカウント。取材班は写真と動画の撮影を開始した。光る頻度は60秒間で30回を少し超えた。午後9時半を過ぎると、何度も繰り返しカウントしていた草桶さんが一言。「ここも2秒型と断言していいと思います」。新発見の期待は宵闇に消えた。
目視調査で3秒型を確認した場合、遺伝子解析するつもりだったという草桶さん。「ホタルは自然環境や文化を象徴する存在。生態の特徴や環境保全などいろんな観点で興味は尽きません」。各地でホタルを観賞する際は、発光周期にも着目すると新たな発見があるかもしれない。
ゲンジボタル 夜行性の昆虫で、青森県を北限に本州、四国、九州に分布する日本の固有種。体長は雄14ミリ前後、雌18ミリ前後。川岸に産卵し、ふ化した幼虫はカワニナを食べて成長する。川岸に上がった幼虫は土にもぐってサナギになり、羽化すると地表に現れる。腹部に発光器があり、光の明滅は雄と雌がひき合うためのシグナルになっている。(福井新聞)