益子町出身のタレント井上咲楽(いのうえさくら)さん(24)が1日、下野新聞社のイメージキャラクターに就任した。井上さんが出演するCMの放映も同日、下野新聞社のホームページや次世代型路面電車(LRT)内などでスタート。CMでは、県内育ちのヤギも出演し、新聞を“配達”した。7月下旬、宇都宮市内で行われた撮影で、奮闘する姿を追った。

午前9時過ぎ、オリオン通りの一角の冷房が効いたスペースで、4頭のヤギが待機していた。日光市瀬尾の日光霧降高原大笹牧場と日光八木澤ファームからやって来たヤギで、普段はそれぞれの場所で来場者と触れ合っているが、撮影はもちろん、牧場の外に出るのは今回初めてだった。
撮影は専門家の監修の下、体調を見極めながら慎重に進められた。最初に登場したのは大笹牧場の2頭。推定3歳の雌「ウェーブ」(体長約50センチ)と、生後4カ月の雄「さとる」(約30センチ)。血縁はないが仲は良く、本番前、頭を寄せ合いながらじゃれ合っていた。

ウェーブの様子に同牧場牧野課長の田野井貴洋(たのいたかひろ)さん(32)は「少し緊張気味ですけど、落ち着いていてよかった」。一方のさとるは記者がカメラを向けると怖がるそぶりも見せず、レンズをペロリ。「普段、観光客を相手にしているのでとても人懐こい」(田野井さん)。
井上さんが到着すると、いよいよ撮影が始まった。
最初は、井上さんがヤギのリードを手に、新聞を配るシーンが収められた。2頭はキャストとしてオリオン通りを行き交う人たちに時折、興味を示しながらも所定の位置をキープ。撮影は滞りなく進んだ。

暑さの中、2頭は撮影の合間、脇で草を食べたり、水を飲んだりしてしっかり休憩した。水は「飲み慣れたものを」と大笹牧場から運び込まれており、田野井さんは「器がいつもと違うが、少しずつ飲んでいる。草を食べることも水分補給になる」。
田野井さんによると、ヤギは好奇心旺盛で、人が手を差し出すとペロッとなめるだけでなく、思わずかんんでしまう場合もあるとか。さとるのような小さいヤギは、頭をなでると喜ぶという。
与えられた分だけでは足りないのか、さとるは箱に入っていた餌を“盗み食い”。まだまだ元気いっぱいで、井上さんも休憩中にヤギをなでるなどして触れ合っていた。

■抱っこ要員
続いてポスター用に、ヤギを抱っこする井上さんの写真撮影が行われた。ここでさとるに代わり登場したのが、日光八木澤ファームの「しらたま」。生後2カ月の雄で、日光八木澤ファーム代表の八木澤裕史(やぎさわひろし)さん(45)は「おとなしくて人が好き。抱っこされ慣れている」と教えてくれた。

“抱っこ要員”として登場したしらたま。井上さんが抱っこしてももちろん動じず、「思った以上に楽しんでいるよう」と、八木澤さんの目尻が下がった。
ウェーブの“控え”として待機していたのは、日光八木澤ファームの「百味(ももみ)」。2歳の雌で、八木澤さんによると、百味は昨年夏、原因不明の病気で衰弱し、一時は命も危ぶまれたという。奇跡的に回復し、すっかり元気な様子だった。この日の出番はなかったが、八木澤さんは「この場に来られるとは思わなかった」と感慨深げに見守った。

■ラストスパート
最後の撮影場所は宇都宮市本丸町の宇都宮城址公園。昼過ぎ、気温も上がり慣れない場所での初めての経験で、疲れも出てきたのか、ウェーブが所定の位置から動いてしまい、ポーズが決まらない。
「なんとかもう少しだ」。田野井さんらが氷の入った袋をウェーブの首元に当てたり、冷却パッドを背中に当てたりしながら、急いで撮影が行われた。休憩時間はテントの下で、扇風機の風に当たりながら水を飲み、草を食べた。塩分やミネラルも摂取していた。

「頑張れ」「良い子だ!」。激励の言葉が響きわたる中、ウェーブもポーズをキープしてくれ、予定通り撮影を終えた。
普段は涼しい高原で過ごしている4頭。撮影後、田野井さんは「途中で横たわることもなく、食欲もあって終始動き続けていた」とねぎらった。八木澤さんも「よく頑張った。『お疲れメェ~』です」。
宇都宮より涼しい高原へ無事に“帰宅”。変わらず元気に過ごしており、牧場で触れ合えるそう。
記者も汗だくになりヘトヘトになったが、ヤギの愛くるしい表情に何度も救われた。