7月以降、宇都宮市内でサルの目撃情報が相次いでいる。これまでに若草2丁目や南大通り1丁目、戸祭町の住宅街などさまざまな場所に姿を現している。左手がないとの情報もあり、宇都宮市は同一の個体の可能性が高いとみている。なぜ人里に現れたのか。行く先がないのか。街中をさまようサルの動向を探った。
住宅街で目撃、話題に
宇都宮市内で今夏、サルの目撃情報が最初に表面化したのは7月13日。市に隣接する芳賀町東水沼で目撃された後、近隣の同市清原台4丁目に現れたもようで、県警に通報があった。以来、市内や周辺市町でサルの目撃が続き、本紙でもたびたび報道されてきた。幸い、人的被害の報告はない(9月3日時点)。
8月25日夕に目撃が相次いだ場所は、宇都宮市役所から北方へ車で10分ほどの戸祭町の住宅街。目撃者が撮影したサルの動画を見ると、左手が欠損している姿が映っていた。
その後の行方が気になり記者が8月末、現場周辺の住宅を訪ねて回ると、地域でかなり話題になっている様子だった。
同所在住の下野写真協会会員井上詔(いのうえあきら)さん(80)も25日に目撃した一人。近隣住民からの連絡で家の外へ出ると、わずか7~8メートル先にサルがいた。市道脇の柵の上に座っていたが、近隣住民らが集まってきても怖がる様子はなかったという。

井上さんは「衰弱している様子もなく、悠然としていた。人慣れしてしまったのかも」と推測する。
同じ日の夕方、別の無職女性(70)は、家の外から「ギャーギャー」という聞き慣れない声が聞こえた。2階の窓から外を見ると、隣家の塀の上にサルがいたという。「まさか家のすぐ近くにサルがいるなんて」と驚いた。と同時に「少し小さい感じでかわいげのあるお猿さんだった。うまく生き延びて山がある所に行けるといいけど」と心配そうに話した。
実はさかのぼること約半年前の3月21日、矢板市内でも左手のないサルが目撃されていた。もし同じ個体だとすれば、長期間にわたって人里をさまよっている可能性が高まる。
保護する予定は
サルを保護することはできないのか。
宇都宮市上金井町の宇都宮動物園によると、野生動物の保護は個体の健康状態を調べる検査や認められた飼育場所を確保することなど、さまざまな条件がありハードルが高い。現時点で宇都宮動物園に野生のサルを飼育できる場所はなく、保護は現実的ではないという。担当者は「どこかで一時的に保護し、様子を見てから山へ返してあげるのが一番なのですが…」と話す。
一般的にサルは群れを成して行動するという。今回のサルはもしかすると、左手がない影響で仲間についていけないといった事情があるのか。宇都宮市農林生産流通課の担当者は「左手がないことが理由で群れからはぐれてしまった可能性はある」とする。

市によると、もし野生動物が人里に出没した場合は捕獲を検討することが多い。しかしサルは移動が早いため、通報後すぐに現場を訪れても姿を消してしまっていることがほとんどで、捕獲は難しいという。
左手のないサルは、東木代町の路上で8月28日朝に目撃されて以降、宇都宮市内で姿を見たという情報はない。ただ、翌29日、真岡市上高間木3丁目で目撃されたサルは体の特徴が同じだったという。
行方が分からない中、宇都宮市は「サルを見かけた場合は決して近づかず、できるだけ建物内などに避難して市役所や警察に通報してほしい」と呼びかける。
今後も人への危害がなく、サルも安心して暮らせる場所が見つかることを願うばかりだ。