分科会「人権報道の新たな視点を求めて-“描かれた人々”との対話から」では津久井やまゆり園事件の被害者家族と、その家族に取材した記者らが登壇し、人権報道の在り方を見つめ直した。

事件は2016年、相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で発生。入所者19人が殺害され、職員2人を含む26人が重軽傷を負った。
TBSスパークルの福田浩子(ふくだひろこ)氏は2年後の18年から、事件で重傷を負った尾野一矢(おのかずや)さんと父剛志(たかし)さん、母チキ子(こ)さん、一矢さんの訪問介護を担う大坪寧樹(おおつぼやすき)さんを取材。この日の分科会で、4人との対談を通してこれまでの取材と報道を振り返った。

事件の被害者家族として3人は、顔と実名を出して取材に応じている。剛志さんは理由について「自分の口ではっきり伝えていこうと思った。なぜこんなことになってしまったのか、きちんと伝えないといけない」と明かした。
一矢さんは重度訪問介護制度を活用し、事件後の20年からアパートで暮らす。こうした様子を報道することで近所の人が一矢さんの状況を理解するようになったことがあり、大坪さんは「マスコミと付き合うことで(一矢さんの生活が)展開していった部分もある」と語った。
事件では被害者が匿名発表となったほか、取材に応じられない家族も多い。剛志さんは「なぜそうしなければいけなかったのかを考えることが大事ではないか」と問題提起した。また事件後の取材手法についても、「事件の時だけわーっと来るのではなく、福田さんみたいに事件後時々顔を出すようなことが大切ではないか」と呼びかけた。
◆下野新聞連載「希望って何ですか」 子どもの貧困 実相報告
子どもの貧困の実相を伝える下野新聞社の大型企画「希望って何ですか 続・貧困の中の子ども」を連載した「子どもの希望取材班」の大貫茉伊子(おおぬきまいこ)氏も分科会で取材や報道の成果を発表した。

取材を通じて貧困問題に付きまとうスティグマ(負の烙印(らくいん))の根深さを痛感したことを明かした。取材者として「取材された人に不安があることを理解しないといけないし、不安を取り除くことを考えないといけない」と強調した。
取材班で始めた子ども食堂にも言及し「支えを必要とする子どもや親子は地域とのつながりが必要だ」と意義を説明した。
■座長
畑谷史代氏(信濃毎日新聞社論説委員)
西川潤氏(TBSテレビ編成考査局審査部長)
■コメンテーター
綾屋紗月氏(東京大先端科学技術研究センター特任准教授)
神戸金史氏(RKB毎日放送解説委員長)
■報告者
泉優紀子氏(HBC北海道放送コンテンツ制作センター報道部記者)
福田浩子氏(TBSスパークルエンタテインメント本部ドラマ映画部)
篠原光氏(信濃毎日新聞社編集局報道部記者)
大貫茉伊子氏(下野新聞社編集局くらし文化部記者)
■ゲスト
尾野一矢さん(津久井やまゆり園事件の被害者)
尾野剛志さん(一矢さんの父)
尾野チキ子さん(一矢さんの母)
大坪寧樹さん(一矢さんの訪問介護を担う介護福祉士)