那須町湯本の朝日岳(1896メートル)の登山道付近で2023年10月、男女4人が低体温症で死亡した山岳遭難事故は6日、発生から1年となった。雨が落ちる朝日岳にはこの日、朝から多くの登山客が訪れた。痛ましい事故を脳裏に浮かべる人もいた。秋の行楽シーズンの登山が暗転した1年前の事故。山岳関係者は改めて重く受け止め、「熟練の登山者も観光目的の人も、山を甘く見ないで」と訴える。

6日朝。「那須ロープウエイ」近くの峠の茶屋駐車場から登山道に入った。所々雨水がたまり、ぬかるんで滑りやすくなった山道。雨の中でもレインウエア姿で、それぞれの目的地へ向かう登山客の姿があった。
晴れていれば勇壮な朝日岳を望める場所でも、この日は霧と雲に覆われ、姿を見ることはできない。降り続く雨と時折吹く風。目指す山頂を踏む人もいれば、引き返す人もいた。

遭難事故が起きたのは23年10月6日午後。「1人が低体温症で動けない」「滑落した女性を引き上げた」などと110番が相次いだ。警察と消防は捜索を始めたが強風のため中断。翌7日朝、65~79歳の男女4人の遺体を発見した。死因は低体温症で、1人は別のグループで登山していた。強風と寒さで身動きが取れなくなったとみられる。
茨城県東海村舟石川、会社員青木正(あおきただし)さん(68)は1年前の事故発生後の7日、朝日岳を目指していた。風が強く、引き返したことを思い起こす。6日も降雨のため予定を変更し那須岳(茶臼岳)に登った。「装備を調えているが、万全はないと思い登山をしている」と話した。

事故の衝撃は山岳関係者にも刻まれている。県山岳・スポーツクライミング連盟は事故後、ホームページなどで啓発に力を入れてきた。増渕篤史(ますぶちあつし)遭難対策委員長(53)は「下調べを徹底して計画を立ててほしい」とし、力に合った登山計画作りや装備品の確認、天候に応じたルート変更や中止などを呼びかけている。