故大貫正一弁護士(遺族提供)

大貫弁護士について語る長男の大介さん=9月下旬、宇都宮市小幡2丁目

故大貫正一弁護士(遺族提供) 大貫弁護士について語る長男の大介さん=9月下旬、宇都宮市小幡2丁目

 9月下旬に最終回を迎えたNHKの連続テレビ小説「虎に翼」で、物語の最終盤に描かれた尊属殺人事件裁判。そのモデルとなり、1973年に最高裁で憲法違反の判決を勝ち取った弁護士が宇都宮市にいた。同市小幡2丁目、故大貫正一(おおぬきしょういち)さん=享年(87)。戦後の法制史に残る業績にドラマを通じて光が当たった。遺族らは「助けを求める人には手を差し伸べる人だった。喜んでいるのでは」と思いを巡らせている。

 尊属殺人罪は刑法200条にあった重罰規定。祖父母や親など直系の親族を殺害した場合に通常の殺人罪より刑を加重し、死刑か無期懲役を科すものだった。背景には年上の親族を敬う戦前からの家族観があったとされる。

 事件は68年、矢板市で発生。父親から長年にわたり性的暴力を受けていた女性が、父親を絞殺した。正一さんは弁護士の父大八(だいはち)さんと弁護に当たった。きっかけは女性の母親が、報酬代わりにジャガイモをかばんいっぱいに持って事務所を訪ねてきたことだった。

 正一さんらは、法の下の平等を保障する憲法14条違反を主張。一審宇都宮地裁は違憲としたが、二審東京高裁は合憲と判断。最高裁は73年4月、憲法制定以来初めて法令を違憲と認定し、女性に執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。

 正一さんは2021年に他界した。法律事務所だった自宅で歯科医院を開く長男の大介(だいすけ)さん(58)は約50年越しの脚光に「もし父が生きていれば喜んでいるのでは」。厳しく怖かった父だが「間違った法律で困っている人がいる。ならば助けたいという気持ちがあったと思う」と話す。

 正一さんは赤麻村(栃木市藤岡町)の農家出身。妻和代(かずよ)さん(85)は「清廉潔白というか、お金に固執しなかった。無償で仕事を引き受けることもよくあった。一本気で、仕事に生きがいを感じる人だった」と懐かしむ。

 尊属殺人罪は1995年の刑法改正で削除された。正一さんの下で働き、師弟関係を築いた県弁護士会の太田(おおた)うるおう弁護士(72)は「弁護活動では原則を重んじる人だった。そこを学んだし、大切にしたい」と語った。