2023年1月に新たに発見された「紫金山・アトラス彗星(すいせい)」が地球に最接近した13日夕方、栃木県内で各地で観測の報告が相次いだ。市貝町市塙、歯科医師小倉浩(おぐらひろし)さん(57)は肉眼で確認するとともに写真の画像をつないだタイムラプス動画の撮影に成功した。小山市間々田、無職宮田宏美(みやたひろみ)さん(77)は、同市内の思川の上空に輝く彗星を金星と共に写したほか、宇都宮市や那須烏山市、那須町でも彗星が確認された。県子ども総合科学館は「13日は天候に恵まれ、長い尾をたなびかせる彗星の姿を観察できた。20日頃までは見頃が続く」としており、今後も長く尾を引く彗星を楽しめるチャンスがありそうだ。

小倉さんは同日午後5時ごろから6時半ごろにかけてカメラ4台で、茂木町町田の千本城跡から西の空の撮影に挑戦。最初はカメラのモニターで彗星を確認していたが、しばらくして尾を引く彗星が肉眼で見えるようになったという。「肉眼で見える彗星に出合えて良かった。いろいろな彗星の写真を撮ってきたが、肉眼で見たのは初めて。かなり大きい彗星なのではないか。この目で見られてうれしい」と喜んでいた。
ニコンのミラーレスカメラ「Z5」でタイムラプス撮影にもチャレンジし、午後5時18分から同6時23分にかけて17秒間隔で234枚を撮影した。小倉さんは「画角調整で最初は少しずれてしまっているが、画角を調整した。いい感じの動画になった」と振り返った。
大学時代のメーリングリストで「こんなのが撮れた」と動画を送ったところ、友人からは「(新海誠(しんかいまこと)監督のアニメーション)映画の『君の名は。』みたいだね」と言われた、という。小倉さんは「映画のシーンのような彗星のタイムラプス動画が撮れてうれしい」と友人の賛辞にも喜んでいた。

宮田さんは同日午後5時すぎから6時半ごろにかけて小山市間々田の思川の堤防から撮影。肉眼では見えなかったというが、彗星と金星を一緒に撮れるように画角を決め、撮影した。宮田さんは「暗闇の中に思川の水面が見えている。彗星は、思った以上にきれいに撮れた」と話している。

「夢集団・星とロマンを語る会」塩谷支部会員で宇都宮市西原2丁目の片寄一男(かたよりかずお)さん(72)は午後5時50分ごろから6時10分ごろにかけて那須烏山市三箇の田んぼのあぜ道から、彗星を狙った。「8万年かけて地球に来た貴重な彗星の姿を肉眼で見ることができ、感動と興奮を覚えた」と声を弾ませていた。

天文愛好家22人で構成する県天文同好会の会長を務める宇都宮市鶴田町の杉本智(すぎもとさとる)さん(72)は同日夕、自身が那須町高久丙に開設している私設天文台「那須天文台」から撮影。「夕方の残照や月明かりに負けず、長い彗星の尾が肉眼でも見えて驚いた。大彗星です。今週中は肉眼でも見えると思う」と絶賛していた。

県子ども総合科学館によると、13日が地球に一番最接近し、12日からの週末は日の入り直後、夕方の西の空に見えたという。天文課原秀夫(はらひでお)課長(46)は「私も昨夕、科学館の屋上から撮影できた」とした上で「天候に恵まれ、長い尾をたなびかせる彗星の姿を観察できた地域もあった。空に明るさが残る中、双眼鏡などを使って見られた方もいたと思う」と解説する。
彗星が肉眼で見えたことに関しては「彗星は、恒星のようなキラキラした輝きではなく、ぼんやりとした淡い光で輝いているため、見つけにくい天体。肉眼で観察できる彗星が現れることは少ないため、貴重な機会となった」と話した。
宮田さんの写真や、小倉さんのタイムラプス動画については「まさに彗星といった感じで、夜空に長い尾をひく姿が特徴的。動画では夕闇が深まる中で、次第に彗星が姿を現す様子を見ることができる」と評価した。
今後の観測環境はどうなるのか。
原課長は「20日頃までは見頃が続く。この時期は日の入りから1時間後の午後6時ごろに、西南西(西と南西の間)の空で、だいたい15度から30度ぐらいの高さに見える」と説明し、「空の暗い場所であれば、肉眼でもぼんやりとした彗星の姿がわかるかもしれないが、双眼鏡などを使うと観察しやすくなる」とアドバイスした。
21日以降も見えるものの、彗星自体が太陽からも地球からも遠ざかり、だんだんと暗くなるため、観察には双眼鏡や望遠鏡が必要になってくるという。
(小林治郎)