事件・事故の被害者側が加害者に対し、より重い刑罰を望むのは当然だろう。しかし法律の要件を満たさなければ重罪で訴追することはできない。それが法治国家のあるべき姿であり、国民が従う法の安定にもつながる。
宇都宮市内で2023年に起きた乗用車による追突死亡事故を巡り、宇都宮地検は自動車運転処罰法の過失致死罪で起訴した被告について、24年10月に法定刑の重い同法の危険運転致死罪へ訴因変更し宇都宮地裁が認めた。ところが地検側はその要因について具体的な説明をしていない。
法務省の有識者検討会が危険運転致死傷罪の要件見直しの是非などを議論する中、地検側は判断を変えた理由を県民に明らかにすべきだろう。
事故は23年2月、宇都宮市の新4号国道で発生した。法定速度の倍以上の時速160キロ超とされる乗用車にオートバイの男性が追突され死亡し、地検は翌月に被告を過失致死罪で起訴した。遺族は「時速160キロ超の事故がなぜ過失なのか」と地検に危険運転致死罪の適用を要望する一方、7万人超の署名を集めた。
法定刑の上限は「過失運転」が懲役7年なのに対し、飲酒や高速度、あおり行為などが対象の「危険運転」は懲役20年と大きな差がある。地検は補充捜査などで証拠を積み上げたとみられる。が、どのような新証拠が判明したのか、発生時から一貫して危険運転での起訴に向けた捜査指揮を執るべきだったのではないか。疑問は募るばかりだ。
群馬県伊勢崎市で今年5月に起きた5人死傷事故でも、過失致死傷罪から危険運転致死傷罪への訴因変更が行われた。宇都宮の事故同様、親族が署名活動を行うなど、厳罰を求める遺族側が不服を訴えるケースは後を絶たない。
背景の一つとして、危険運転の規定が曖昧なため適用が限定的になるとの見方がある。例えば速度に関して「進行を制御するのが困難な高速度」としている。有識者検討会では、法定速度の2倍など具体的な基準を設ける是非などを検討したが、道路の形状や交通状況はさまざまで「速度のみで実質的危険性を推し量れない」と慎重論も出た。
13日の検討会は、要件の明確化など取りまとめの協議に入る予定という。厳罰化だけでは予防にならないという批判もあるが、被害者側の目線に立った方向性を示したい。