セルビア。東ヨーロッパのバルカン半島内陸部に位置する共和制国家であり、首都はベオグラード。セルビア南部にクラチャクという小さな都市があるのだが、実は堅魚(かつお)市と姉妹都市でもあるのだ。昭和四十年代に日本を訪れたクラチャク市の市長(当時はセルビアではなくユーゴスラビアだった)が、観光で高知を訪れ、そのときに堅魚市に立ち寄ったのが友好の始まりとされていた。今も両市の関係は続いていて、数年に一度の割合で互いに使節団を派遣していた。床山は商工観光課に来る前は秘書課にいて、前回の使節団でセルビアに行ったと酒席で話していたのを奨吾(しょうご)は憶(おぼ)えていたのだ。

「クラチャク市の関係者にメールを送ってくれないか?」

「何てメールします?」

「バスケットボールの指導者を探している。いい人がいたら紹介してほしいと」

「えっ? まさかセルビアからコーチを呼ぶつもりですか?」

「そこまでは考えていないが、選択肢は多い方がいいと思ってな」

 一応市内にある中学、高校のバスケ部監督にそれとなく当たってみたのだが、すべて空振りだった。バスケ未経験の教師がバスケ部監督をしている中学校もあった。地域にも当たってみたが、少年団などのクラブチームも存在していなかった。堅魚市のバスケのレベルはその程度なのだ。先が思いやられる結果だった。

「わかりました。すぐにメールを送りますよ」

「頼む。文面は任せる」

「あ、そういえば移住体験、応募がありましたよ。朝来たら応募メールが届いてました。東京在住の二十代の女性みたいです」

「へえ、そうか。いつから来るんだ?」

「明日ですね。二泊三日の予定です」

 床山はパソコンに向かい、マウスを操作した。応募フォームが画面に出る。移住体験の希望者にはこのフォームにプロフィールや移住を希望した理由など詳細を記してもらうことになっていた。