記者会見するマルタ・アルゲリッチ=5月30日、東京・内幸町の日本記者クラブ

 記者会見するマルタ・アルゲリッチ=5月30日、東京・内幸町の日本記者クラブ

 記者会見する大槻文蔵=5月30日、東京・内幸町の日本記者クラブ

 ステファニー・アルゲリッチ監督のドキュメンタリー作品「出会い」

 マルタ・アルゲリッチ(中央)とミッシャ・マイスキー(右)ら=5月28日(C)大窪道治

 会見する(左から)別府アルゲリッチ音楽祭総合プロデューサーの伊藤京子、マルタ・アルゲリッチ、ステファニー・アルゲリッチ、大槻文蔵=5月30日、東京・内幸町の日本記者クラブ

 記者会見するマルタ・アルゲリッチ=5月30日、東京・内幸町の日本記者クラブ  記者会見するマルタ・アルゲリッチ=5月30日、東京・内幸町の日本記者クラブ  記者会見する大槻文蔵=5月30日、東京・内幸町の日本記者クラブ  ステファニー・アルゲリッチ監督のドキュメンタリー作品「出会い」  マルタ・アルゲリッチ(中央)とミッシャ・マイスキー(右)ら=5月28日(C)大窪道治  会見する(左から)別府アルゲリッチ音楽祭総合プロデューサーの伊藤京子、マルタ・アルゲリッチ、ステファニー・アルゲリッチ、大槻文蔵=5月30日、東京・内幸町の日本記者クラブ

 アルゲリッチ、大いに語る―。

 世界的ピアニストのマルタ・アルゲリッチと能楽師の人間国宝、大槻文蔵。西洋と日本の芸術の最高峰に立つ2人の共演を収録したドキュメンタリー作品「出会い」の完成を受け、東京・内幸町の日本記者クラブで会見が開かれた。めったにメディアの取材に応じないアルゲリッチの会見は極めて異例で、貴重な機会となった。

 「表現方法や文化は違うかもれないが、対話をすることは最も重要で、世界の平和の源となる。本当に豊かな経験をすることができた」とアルゲリッチが語る通り、大槻との共演は特別な体験だったようだ。

 「出会い」は、アルゲリッチの娘で映像作家のステファニーが監督。2022年にMOA美術館能楽堂(静岡県熱海市)でアルゲリッチが弾くバッハの「パルティータ第2番」で大槻が舞を披露した公演と舞台裏の様子を収録した。

 会見で大槻はこう振り返った。「リハーサルでアルゲリッチさんが弾いてくださった音を聴いたら、(準備していたことは)どうでもいい、この音が自分なんだと思えた。なんの抵抗もなく音に乗ることができてびっくりした」

 アルゲリッチは「能に、私は常に魅了されている。バッハは、どんなものとも共演できる音楽。人の精神そのものが表れているからこそ、今回の共演が可能になった。バッハは豊かで全てが入っている。宇宙を表す音楽だと思っている」と応じた。

 「言葉で説明できることは音楽で感じることの数%しかない。言葉で表現しないようなことを感じるのが音楽で、知らないことを知りたいと思う気持ちが音楽になったりすることもある」と、自身の音楽観を語る場面も。年齢や経験を重ねての変化を問われると「私は日々変化したい。(葛飾)北斎は、90歳くらいで『やっと絵の描き方が分かってきた』と言ったという話を思い出します」。

 アルゲリッチと日本の縁は深く、総監督を務める「別府アルゲリッチ音楽祭」(大分県別府市)は今年、25回を迎えた。音楽祭は「異なる文化、日本の方々との対話。毎回特別な思いを抱いている」だと語り、「思い出はたくさんあり過ぎて3日かけても語り尽くせない」と笑顔を見せた。

 室内楽やオーケストラの公演を通して、日本の演奏家たちと豊かな関係を築いてきたアルゲリッチ。「敬愛する(指揮者の)小澤征爾さんがつくられた水戸室内管弦楽団と演奏できることも私にとって特別な喜びです」と思いを吐露した。

 5月14、28日には音楽祭の一環として、東京で公演を開催。

 14日は水戸室内管弦楽団(広上淳一指揮)とベートーベンのピアノ協奏曲第2番を演奏した。アルゲリッチは細かい音が連なる快活なフレーズを流れるように奏で、オーケストラも生き生きと応える。ゆったりとした第2楽章でのピアノの音は静かに弾かれたにもかかわらず響きがホール中に広がり、言葉にしがたい美しさがあった。

 28日は世界的チェリストのミッシャ・マイスキーらと室内楽を演奏。アルゲリッチは鍵盤に向かいながら時折共演者の方に顔を向け、その演奏家の持ち味が自然と引き立てられる音楽を生み出していた。

 日本人演奏家とのハイドンのピアノ三重奏曲第39番「ジプシー」は、美しい旋律の第2楽章と速いテンポで白熱する第3楽章のコントラストが見事。ソロで披露したバッハの曲やラベルの「水の戯れ」は表現力の幅広さで聴衆を圧倒した。

 両公演とも終演後はほとんどの聴衆がスタンディングオベーションでたたえた。

 今年の音楽祭の感想を問われたアルゲリッチは「演奏を終えた時、とてもいい気分だった」。長年、共演を重ねるマイスキーについて「昨年、彼は(病気で)とても困難な時を過ごさなければなりませんでしたが(音楽祭に)カムバックを果たすことができた。彼と一緒に演奏できて本当にうれしかったし、彼も日本で演奏することが好きなので、うれしかったはずです」と、友人への思いがあふれた。

 京都南座での公演もあり、滞在を楽しんだそう。「京都は、美しいお庭もあって素晴らしかった。行くことができて本当に良かった」

 ブルーレイ「出会い」は6月3日に発売。アマゾンで購入できる。(共同通信=須賀綾子、田北明大)

   ×   ×

 「クレッシェンド!」は、若手実力派ピアニストが次々と登場して活気づく日本のクラシック音楽界を中心に、ピアノの魅力を伝える共同通信の特集企画です。