わたらせ渓谷鉄道の社長を退任した品川さん

 栃木県日光市足尾町と群馬県を結び、「わ鉄」の愛称で親しまれる第三セクター「わたらせ渓谷鉄道」の品川知一(しながわともかず)社長(66)がこのほど、任期満了により退任した。新型コロナウイルス禍で経営状況が悪化する中、ローカル線ならではの発想で趣向を凝らしたグッズ開発や利用者拡大のアイデア実現に心血を注いだ。廃線議論もあったが、乗客数はコロナ禍前に戻りつつある。「厳しいからこそ、大胆かつ前向きになれた」と3期6年の取り組みに充実感をにじませる。

 群馬県庁で環境エネルギー課長や名古屋事務所長などを歴任し2019年に社長に就いた。沿線人口の減少で利用者が減る中、コロナ禍が直撃し、鉄道事業の収入は大幅に落ち込んだ。

 車両検査費の一部を賄うため、クラウドファンディングを実施した。全国から多くの支援が集まった。「足尾などかつて沿線に住んでいた人が心配してくれた。故郷を離れても愛される鉄道だと実感した」。ローカル線の原点を見た。

 鉄道事業の先行きが不透明な中、グッズ開発に活路を見いだした。特に「鉄印」に力を入れ、品川社長自ら手書きするなど約5年間で50~60種作り、累計販売数は3万4千枚を超える。

 鉄印帳の販売は、全国の第三セクター鉄道会社40社でトップの累計約5100冊に。桐生織のお守りなど沿線地域の特徴を生かしたグッズも充実させた。「次々にアイデアが生まれ、他社と比べても豊富な種類になった」と喜ぶ。売り上げは年間約500万円から約1500万円に伸びた。

 利用者も、シニア世代の団体旅行から、コロナ禍を経て個人・小グループ旅行メインへと需要が変化した。日光市と連携した企画列車「ゾンビトレイン」や東武鉄道などと組んだ周遊パス、小規模ツアーなどに取り組んだ。「若い世代や女性など幅広い人が、わ鉄に乗ってもらえるようになった」と手応えを口にする。

 乗客数はコロナ禍前の8割ほどまで回復し、安定経営の筋道が立った。「就任当初は乗ってもらうことが目的だったが、わ鉄は沿線地域が活性化するための手段と気付いた。まだまだ可能性がある。わ鉄を使って楽しい地域にしてほしい」と笑顔で社長を退く。