こころみ学園のすぐ裏手、ブドウ畑の頂上に続く細い道の脇に、川田さんと60人の園生が眠る「ここでくらし 働らいた 人たちの墓」がある。「変な言い方だけど」と前置きし、園生たちは上手に彼岸に渡るのだ、と池上さんは言った。有象無象の情報に振り回され、いたずらに不安がることも恐れることもない。他人の幸せをねたむこともせず、今日を生き、やがて仲間に見送られ、従容としてそのときを迎える。

川田さんと60人の園生が眠る墓に花を手向ける池上さん(中央)と園生たち
川田さんと60人の園生が眠る墓に花を手向ける池上さん(中央)と園生たち

 墓に小菊を手向ける池上さんの横で、ヘッドギアの男性が無心に杉の枯れ枝を拾う。「あ、彼がほっちゃん」。紹介され、初老の細身の姿に目をやる。いくらあの手この手で引き出そうとしても、時折混じる“足利弁”で苦労話を笑い飛ばす池上さんが、唯一目尻を拭ったのが「ほっちゃん」の話だった。

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