東日本大震災が発生した2011年の7月に始まった自転車イベント「那須高原ロングライド」が15年目を迎えた。社会が先行きの見えない震災の不安に包まれ、スポーツの催しへの批判もあった中、風評被害に苦しむ地元観光地を元気づける志を原点に始まった。「自転車同様、俺たちも前にしか進まない」。参加者延べ3万人を誇る行事に成長し、実行委員会の関係者は変わらぬ決意で今年の開催に挑む。
「中止する理由を挙げればきりがないが、やらない選択肢はなかった」。高根沢武一(たかねざわたけいち)実行委員会会長(67)は振り返る。当時、懸命にペダルを踏むサイクリストの姿が復興の象徴になると確信し、住民や事業者に理解を求めて回った。
那須町は、福島第1原発事故による放射能被害と風評被害で宿泊キャンセルが相次ぎ、施設の営業縮小も重なって観光客が激減した。実行委副会長を務める那須どうぶつ王国社長の鈴木和也(すずきかずや)さん(64)は「園は一時休園、スタッフも自宅待機。観光事業者は先が見えない状況だった」と話す。
実行委は震災前の11年1月に発足していた。当初描いていた、自転車で那須路を走り自然や食を楽しむというコンセプトに「復興支援」の使命が加わった。
日本中に自粛ムードが広がり「こんな大変な時になぜやるんだ」といった批判の声もあった。当時の町長の言葉に励まされた。
「『那須が再注目される機会を民間でつくってくれてありがたい』と言ってくれてね」。実行委副会長の前田幸雄(まえだゆきお)さん(66)も、避難者対応などに追われる行政の支援が見込めない中、「失敗したら自腹を切る」と覚悟を決めた一人だ。
当日、全国から約800人の自転車愛好家が駆け付けた。「那須を応援に来た」との言葉や沿道からの声援に鈴木さんは「涙が出る思いだった」。
コロナ禍を除いて毎年開催し、19年の参加者は3千人を超えた。今年は前夜祭も復活させる。「立ち止まらずに続けてきて良かった。今後は、1週間をかけて自転車の聖地・那須を楽しんでもらうイベントに発展させたい」と高根沢さん。逆境の中で築き上げた舞台で、新たな活気を生み出し続ける。
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