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南極のラングホブデ氷河=2021年12月

氷河の氷に穴を開ける作業に使う機器と隊員たち=2021年12月、南極・ラングホブデ氷河

熱水を噴射しゆっくり氷を溶かす=2021年12月、南極・ラングホブデ氷河

南極のラングホブデ氷河=2021年12月 氷河の氷に穴を開ける作業に使う機器と隊員たち=2021年12月、南極・ラングホブデ氷河 熱水を噴射しゆっくり氷を溶かす=2021年12月、南極・ラングホブデ氷河

 2021年12月29日から22年1月9日まで、昭和基地(きち)から約20キロ離(はな)れたラングホブデと呼(よ)ばれる地域(ちいき)にある氷河(ひょうが)に同行し、調査(ちょうさ)のお手伝(てつだ)いをしてきました。ラングホブデ氷河の上では、熱水掘削(ねっすいくっさく)という手法(しゅほう)で、氷河の氷に穴(あな)を開けて、観測機器(かんそくきき)を入れ、氷河がどのように流れているのかを調べています。

 夏のラングホブデ氷河の上には、氷河が溶(と)けた水でできた川が流れています。熱水掘削では、その川の水をくみ上げ、80度に温めます。それによってできたお湯をジェットのように噴射(ふんしゃ)し、ゆっくり氷を溶かしながら掘っていき、氷河に穴を開けていきます。

 氷点下の気温の中、15時間近くかけてハンドルを回し、熱水を送るホースを降(お)ろしながら氷河に穴を開けていく作業はとても大変です。また、穴を掘り続(つづ)けていくためには、絶(た)えず燃料(ねんりょう)や水を補給する仕事や、掘削用のホースを絡まないように送り続ける仕事など、さまざまな分担(ぶんたん)作業があります。みんながチームとなって助け合いながら、穴を掘っていきました。

 当初、レーダーによって350メートルと予想していた氷の厚(あつ)さは、実際(じっさい)に掘り進(すす)めていくと、なんと550メートルもありました。やっと開通した穴にカメラを入れて、氷河の底(そこ)にある南極大陸(なんきょくたいりく)の映像(えいぞう)が見えた時の興奮(こうふん)は、代えがたい経験となりました。

 南極大陸の氷は年々減少(げんしょう)しています。その量(りょう)は年間92ギガトン。これは、日本で使う生活用水のおよそ7年分の量です。南極の氷が全(すべ)て溶けてしまうと、地球全体の海の高さが58メートルも上がり、日本の多くの場所が海に沈(しず)んでしまいます。

 では、南極の氷はどのように減(へ)っているのでしょうか。

 実は、地球温暖化(おんだんか)で南極の気温が上がって氷が溶けているわけではないのです。昭和基地における2021年までの10年間の平均(へいきん)気温は、およそ氷点下(ひょうてんか)10・4度です。1972~81年は氷点下10・5度ですので、ほとんど昭和基地の気温は温暖化の影響(えいきょう)を受けていないことが分かります。

 また、南極は寒過ぎるので、自然(しぜん)に氷が溶けるわけではないのです。

 北海道大学の杉山慎(すぎやましん)先生は、南極の氷が海に流れ出し、海が南極の氷を溶かしていると考えました。そして、それを調べるために、氷河に穴をあけて、加速度(かそくど)センサーなどの装置(そうち)を入れ、氷河が海に流れ出すスピードを計ったり、海に流れだした氷の裏側(うらがわ)で、どのように氷が溶けているのかを調査したりしています。

 気候変動(きこうへんどう)の仕組みは、単純(たんじゅん)に気温の変化(へんか)だけでは調べることができません。南極では、こういったさまざまな調査を総合的(そうごうてき)に判断して、地球の未来(みらい)を予測(よそく)しているのです。