唯一無二のイチゴの王様―。福岡県産のイチゴ「あまおう」が、2003年度の本格販売から20年目を迎え、10月末に福岡市で開かれたJAグループと県による記念式典。経緯を振り返る動画で、県は自らそう評した。「王国」を名乗る栃木に対し、福岡はあまおうを「王様」と称し、互いに意識し合う。

「あまおう」の20周年記念大会で挨拶するJA全農ふくれんの大坪康志県本部長
「あまおう」の20周年記念大会で挨拶するJA全農ふくれんの大坪康志県本部長

 消費者の好みの変化などから「品種の寿命は約20年」ともされるイチゴ。かつて福岡県の主力だった国育種「とよのか」の品種登録は1984年。その約20年後、県内のとよのかのシェア(JA出荷分)は98%から3%へ一気に縮小する。栃木県産「とちおとめ」の普及もあり、単価は下降局面を迎えていた。

 そこに躍り出たのが、あまおうだった。21年度の販売単価は過去最高(1キロ当たり1548円)を記録し、18年連続で日本一。県園芸振興課の久保田孝課長は「市場からは『もっと品物を回して』と言われる。まだまだあまおうでやる」と言い切る。「ポストあまおう」もまた、あまおう。JA側も方針にぶれはない。

 あまおうの品種名は「福岡S6号」。とちおとめとは異なり、当初から苗の使用許諾を県内に絞った。「あまおう」の商標権はJA全農ふくれんが持ち、「博多あまおう」と福岡限定を前面に出して知名度を高めた。都道府県の中でイチゴ生産量2位を誇り、1割超の全国シェアを持つ福岡県。生産を県内に限定しつつも、市場に一定量を出せる。その絶妙な戦略が奏功し、あまおうは20年を迎えても衰える気配がない。

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 現状では高評価のあまおうだが、多くの品種をそろえた栃木県と比べれば、“一本足打法”のように映る。福岡S6号は、無断栽培を排除できる「育成者権」が25年1月に切れ、国内では誰でも栽培できるようになる。商標権は維持され、ふくれんは引き続き、福岡県産にのみ「あまおう」のブランド名使用を認めていく方針だが、新品種の育成もいずれは必要になる。

 イチゴの専門チームが品種開発に必要な親株の育種を継続する県農林業総合試験場。毎年、親株を掛け合わせて苗をつくり、約1万株の中から優良なものを選抜していく。シーズンになると、研究員は毎週約200個のイチゴを食べ、糖度、酸味、硬度などを評価。末吉孝行チーム長は「何かが良ければ、何かが悪い。いい性質を両立させるのに苦労している」と漏らす。

綿棒でイチゴの花に花粉を付ける交配作業を説明する育種担当者=11月18日、福岡県筑紫野市の県農林業総合試験場
綿棒でイチゴの花に花粉を付ける交配作業を説明する育種担当者=11月18日、福岡県筑紫野市の県農林業総合試験場

 新品種を開発するには「どのような特徴を備えた系統にするか」という育種目標が不可欠だ。「あかい、まるい、おおきい、うまい」というあまおうの特性は広く消費者から受け入れられており、新たな目標の難易度は高い。市場からは「ぜいたくを言えば、シーズン終盤の日持ちを改善できるといい」(大果大阪青果関係者)との指摘がある。

 消費者の好み、市場のニーズ、生産者の収入増、そして産地の現実。関係者は「ポストあまおう」に向けた動きを模索している。

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 「あまおう 苗 福岡」。福岡県農林業総合試験場では月2回、県産農産物の権利侵害行為を探すため、パソコンにキーワードを打ち込み、ネット取引内のパトロールを続けている。

あまおうの育成者権や商標権を侵害している事例がないかを調べる福岡県農林業総合試験場の職員
あまおうの育成者権や商標権を侵害している事例がないかを調べる福岡県農林業総合試験場の職員

 あまおう栽培が始まった当初、県外の量販店などで苗が無断販売されるケースがあり、余った苗の管理を徹底するよう生産者に呼びかけて減らしてきた。権利侵害が疑われる場合は取り寄せてDNA鑑定するなど、対応を続けている。

 あまおうは全国に先駆け、東アジアで品種や商標の登録が進んだ。中国では2010年、韓国では15年に登録され、現在は両国でも無断栽培はできない。日本国内の種苗法で苗の国外持ち出しも禁じられている。

 ただ、韓国では日本国内と同じ25年、中国では30年に育成者権の期限が迫る。種苗法の対象からも外れ、制度上、両国での栽培も自由となる。商標は香港や台湾でも登録され「あまおう」名で販売はできないが、同種の苗が出回り、各国で安価なイチゴが「あまおう」と競合する恐れはある。

 同試験場は「苗が一度流出すると取り締まりは難しくなる」と警戒。25年以降も苗が出回らないよう生産者に啓発を続ける方針だ。