衝撃的な数字がある。2020年の福岡県内の販売農家(年間の農産物販売額50万円以上など)は2万7187戸で、20年前の約42%まで激減-。高齢化による離農の加速が理由だ。


イチゴ農家に限ってみると、21年度は1474戸と20年前の約66%に踏みとどまった。
「イチゴ栽培も70代はばりばり現役だが、徐々に面積を減らし、80代でいよいよ離農」とJA関係者。06~21年のイチゴの新規就農者は約440人で、落ち込みを「あまおう」人気でカバーしてきた面がある。

同県みやま市の田中宏典さん(30)はその一人。「しっかり収量を出して、約15年間で3千万円の借入金を返済したい」。真新しい21アールのハウスで今季、初出荷を迎えた。同市のJAみなみ筑後が21年度から始めた新規就農者を育成するトレーニングファームの1期生だ。
JA全農ふくれん(福岡市)によると、ふくれんと西日本鉄道(同)が15年に設立した「NJアグリサポート」(同県大木町)を皮切りに、県内五つのJAが同様のファームを設置し、人材育成に乗り出している。
研修期間は約1年。研修生には国の支援事業で年間150万円が支給される。その間に最低限の技術習得や農地探し、補助金を活用したハウス建設など一連の準備を支援していく。田中さんは「研修がなかったら、1年で就農できなかった」と振り返る。

同ファーム2期目の研修生、佐藤太一さん(36)=福岡市出身=は全日本空輸で、パイロットのマニュアル作りをする総合職から飛び込んだ。「通勤時間が長い東京暮らしは続けられない」と、家族中心の生活ができそうな農業に着目。「ブランド力があるあまおうを栽培し、消費者に食べてもらうのは誇らしい。就農後も相談できるので安心だ」と考えている。
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福岡県では本年度から、生産者が減っている分を平均収量のアップで補うことを狙った「匠(たくみ)の技 伝承事業」が始まる。

ベテラン生産者約50人を「あまおうの匠」に認定。就農5年以内の生産者が栽培で迷った際、眼鏡型のウェブ端末「スマートグラス」でハウス内の様子を匠とリアルタイムで共有し、指導してもらうシステムだ。
地域の中で指導役をしっかりと位置付けながら、限られた時間で効率的に技術を伝える。農業大学校の授業にも取り入れる方針だ。「若手に魅力ある農業環境を今後も用意していく」。県後継人材育成室は力を込める。