イチゴめがけてカメラ付きの“手”が伸び、茎を切ってコンテナまで運ぶ。

 11月中旬、福岡市内であった福岡県農林水産まつり。同県久留米市のアイナックシステム開発の収穫ロボットがお披露目された。来春の本格販売が目前だ。かがまなくて済む「高設栽培」用で、1個当たりの作業時間約10秒を目指す。

イチゴ収穫ロボット「ロボつみ」を視察する福岡県の服部誠太郎知事(右)=11月中旬、福岡市中央区
イチゴ収穫ロボット「ロボつみ」を視察する福岡県の服部誠太郎知事(右)=11月中旬、福岡市中央区

 「使ってみたい」。試作機がメディアで取り上げられて以降、稲員(いなかず)重典社長(56)には問い合わせが絶えない。社長は県内有数の産地、広川町のイチゴ農家出身。生産者の苦労を熟知し、購入しやすいように販売価格を200万円ほどに抑え、耐水性も向上させた。

 いよいよ研究室レベルを離れ、夢の収穫機が現場に入る。稲員社長は「徹底的な農家目線で、新たな生産スタイルを提案したい」と意気込む。

 人工知能(AI)関連のベンチャー企業フォーカス(宇都宮市)も、自動走行し、収穫に適した果実をAIが判別して収穫する類似ロボットの開発を進める。寺澤崇史社長は「人手不足や重労働に悩む生産者の力になりたい」と話す。

 生産者が収穫ロボットとともに、ハウス内で作業する未来はすぐそこだ。

 省力化や働き方改革につながる分業も進む。

各農家から持ち込まれたイチゴのパック詰め作業=11月21日、真岡市田町のJAはが野高機能物流センター
各農家から持ち込まれたイチゴのパック詰め作業=11月21日、真岡市田町のJAはが野高機能物流センター

 11月下旬、栃木県真岡市。JAはが野が設置する高機能物流センターでは、コンテナに積まれたイチゴが大きさ、形、重さごとに手作業で選別され、次々とパックに収められていた。

 生産者が自ら行う選果、パック詰め作業は全労働時間の5割前後を占める。同センター向けには、摘み取ったイチゴを持ち込むだけでよく、同JA管内の生産者の4割弱が利用する。

 JA全農ふくれん(福岡市)も生産者に栽培に集中してもらおうと、パッケージセンターの充実による分業を推進する。ただ「パッケージセンターの人材確保も難しくなっている」(JA関係者)。

 それを打破するのも、ロボットかもしれない。自動車分野などで広く使われている産業用ロボット大手の安川電機(北九州市)と福岡県は、パック詰めの機械化に挑戦中だ。

安川電機と福岡県が研究、開発中のイチゴのパック詰めロボット=11月中旬、福岡市中央区
安川電機と福岡県が研究、開発中のイチゴのパック詰めロボット=11月中旬、福岡市中央区

 コンテナにランダムに入ったイチゴ。カメラで形状や重さを把握し、“手”が吸い込んでパックに詰めていく。AIであらゆるデータを蓄積し、最適な選別・パック詰めを目指している。「夜中に無人で選果できれば、さらに人手不足の対応につながるはずだ」。同社幹部は自信を見せる。

 誰もいないハウスでロボットが収穫し、パック詰めする-。二大産地の両県で、こうした光景が近い将来、見られるかもしれない。