文化勲章受章者で作曲家の故船村徹(ふなむらとおる)さん(塩谷町出身)と親交の深かった音楽プロデューサー小西良太郎(こにしりょうたろう)さんが、船村さんの足跡を振り返りながらその素顔に迫る「ロマンの鬼 船村徹」を下野新聞社から出版した。半世紀余に及ぶ交流から数々の逸話や“船村語録”をひもとき、本県が生んだ大作曲家の魅力を伝えている。
「私淑五十年」の副題通り、小西さんはスポーツ新聞の音楽担当記者だった1963年に船村さんの知遇を得、以来2017年2月に船村さんが亡くなるまで、54年にわたって密着。「外弟子」として、船村さんの人となりや仕事ぶりをつぶさに見てきた。
同年10月からは、下野新聞に全48回で「素顔の船村徹」「続・素顔の船村徹」を連載。没後の法要や行事などと同時進行しながら、毎回船村作品を1曲ずつ取り上げ、曲にまつわる思い出やよもやま話を披露し、地元ファンから「知らないエピソードも多く貴重」などと好評を得た。
同書は同連載を再録したほか、「歌は情や縁という糸を通された数珠のようなもの」といった折に触れて接した船村さんの言葉を「徹語抄」として紹介。日本の歌の王道を極めた船村さんの偉業とともに、家族や弟子たちとの深い絆や、戦争や罪を憎み、国を憂い、人間を愛する詩人、国士、文化人などのさまざまな顔をのぞかせている。
表題は作詞家星野哲郎(ほしのてつろう)さんの船村さんへの献詩の一節。ヒットしたメロディーの一部は絶対に使わないという苦行を自らに課した船村さんに「物書く人の操と志」「徹底した現場体験主義」を学んだという小西さん。希代のロマンチストに誰より長く深く関わった著者もまた、船村徹のロマンに魅入られた「鬼」の一人だったのかもしれない。
四六判、290ページ、1760円。(問)下野新聞社コンテンツ推進部028・625・1135。