ひとたび災害が発生すると人命救助や復興支援、インフラ整備に注目しがちだが、地域の歴史や文化を継承するための文化財保全や防災対策も急がれている。国や県、市町指定の文化財に限らず地域にある貴重な文化財を災害から守り、後世に生かすための取り組みと課題を学ぶ。
災害が相次ぐ中、地域の歴史資料(史料)をどう後世に伝えていくか-。災害に巻き込まれた史料を救出・保全するため2020年、「とちぎ歴史資料ネットワーク(とちぎ史料ネット)」が誕生した。
代表を務める共同教育学部の高山慶子(たかやまけいこ)准教授によると、活動のきっかけは2019年の台風19号。秋山川の氾濫により佐野市は広範囲にわたって浸水被害が発生。戦争に関するコレクション史料が水浸しになった所蔵者は、阪神淡路大震災を機に被災した史料の救出と保全に取り組んできた「歴史資料ネットワーク(史料ネット)」(神戸市)に相談し、高山准教授も現地に向かった。
宇都宮大に運ばれた史料は段ボール20箱分。作業は学生も参加し、史料ネットのメンバーに教わりながら濡れた史料にキッチンペーパーや新聞紙を挟み、水を吸い取る作業を続けた。現在は乾燥・修復を終え、一部の史料を地元の佐野市郷土博物館に寄贈したり、修復不能な史料をデジタルカメラで撮影したりするなど一定の進展をみせている。
本県における歴史文化研究・教育拠点を構築し、とちぎ史料ネットと連携協力するため、21年には国立歴史民俗博物館、宇都宮大、国学院大栃木短大との三者協定を締結。高山准教授は「東日本大震災を経験した東北大、阪神淡路大震災を機に史料ネットの礎を築いた神戸大、国立歴史民俗博物館を中心に、全国の大学をつなぐネットワークが構築されている。そこに本県も連携できるようになってきた」と成果を話す。
高山准教授が課題に挙げるのは、関係団体との連携と災害現場での協働。地元の博物館や文書館、県や市町の文化課職員や教育担当者がそれぞれ史料を守る活動を行っており、とちぎ史料ネットとしてこれらをどう結びつけ、活動を展開できるか模索している。
さらに災害現場で歴史資料に関する認識を持ってもらうことも重要だ。災害ごみの中に貴重な史料が紛れている可能性もあり、「人命が最優先だが、災害ボランティアにも史料の重要性や文化財レスキューの体制作りを訴えかけたい」。
県文化財保存活用大綱が策定され、未指定を含めた有形・無形文化財をまちづくりに生かし、市民の手で文化財を守ると同時に地域活性化につなげる機運が高まっている。高山准教授は「地域でも身近な史料の意義や大切さを紹介したい」と話した。