【茂木】昭和の風情を残す街並みが魅力の茂木。町は本年度の重点事業の一つに、その個性を生かした「昭和レトロなまちづくり」を掲げ、観光誘客と産業振興に一歩を踏み出した。まず長崎県のコレクターから大小数千点に上るレトログッズを譲り受け、貴重な“昭和の記憶”の収集に着手。明治以来、町の繁栄の礎となったたばこ産業の歴史を、たばこ関連グッズの収集を基礎に伝える取り組みも進み始めた。
往年のヒーロー「鉄人28号」の大型フィギュア、ホーロー看板、黒電話、木箱に収めた瓶入り清涼飲料、任侠(にんきょう)映画のポスター…。保管場所として使われる空き民家の部屋は昭和レトログッズで埋め尽くされた。長崎県島原市広馬場町、衣料品店経営荒木修(あらきおさむ)さん(71)が4月、運転手とともにトラックで1300キロ余りの道を2日がかりで運んできた。
理想の譲渡先
1946年創業、島原市内の老舗衣料品店「福屋」の一角でコレクションは展示されてきた。店を今月畳む店主の荒木さんがインターネットで売りに出し、それを知った事業の旗振り役の町商工観光課長滝田隆(たきたたかし)さん(55)がすぐ現地に赴き譲渡を交渉。荒木さんが情熱を傾け長年集めた品々は、千キロ離れた茂木町で町おこしに一役買うことになった。
荒木さんはコレクションを島原市の地域おこしに活用してほしいと願い、同市に何度も活用を働きかけたがかなわず、悔しい思いをした。茂木町の熱意に触れ「自分の理想と思う方と巡り会えた」と感激。譲渡後も町の展示計画への協力に前向きだ。
最後のチャンス
「昭和レトロな街並みが残る町で、たばこの歴史とともに見せていく。それが中心市街地活性化の唯一の方法ではないか」。滝田さんはそう考える。300万円かけて入手した荒木さんのコレクションはほんの入り口だ。「代が替われば失われる。最後のチャンス」と、町報6月号の丸1ページを充て「家に眠る昭和レトロな物の情報提供を」と町民に呼びかけた。
ただ、「昭和レトロで観光誘客」の発想は珍しくはない。どう見せて町づくりに生かすか、観光資源の未成線「長倉線」などと連携し、観光や地域振興にどう結びつけるかは息の長い取り組みになる。本年度策定する「昭和レトロなまちづくり計画」に、茂木ならではの魅力的な青写真を描けるかがまず鍵だ。
小さな芽育てる
町の本気度が伝わったか、貴重な「日本専売公社」の社旗など、新たなお宝も町民から集まり始めた。
古口達也(こぐちたつや)町長は「グッズ展示の拠点をどこにするか、街並みの修景をどうするか、収支をどう確保していくか。それが町民に理解される形できちんと計画で示せないと駄目」と、現場に宿題を課している。「小さな芽だが育ててみたい。何かやらなければゼロ。やってマイナスになってもその方がいい。批判はあるかもしれないが、マイナスでは終わらない」と、職員の着想と奮闘を後押しする。