地域防災力の底上げには、災害の知識や防災・減災のスキルを身に付け、地域住民をリードする「防災士」が欠かせない。1日、宇都宮市内で開かれた宇都宮大地域デザインセンターの「地域防災シンポジウム2023」を基に、県内の防災士の現状と課題、実践事例を紹介する。

 防災士は、阪神淡路大震災を契機に防災の指導者を育成するためNPO法人日本防災士機構が定めた民間資格。平常時の啓発活動に重点を置き、講演や訓練を通じて防災・減災に関する心構えや知識を紹介している。発災時は避難所運営やボランティア活動に当たる。

県内に4302人

 NPO法人県防災士会の稲葉茂(いなばしげる)理事長によると、自然災害の多発を受け、地域を守る自治会や自主防災組織の役員らを中心に注目されているという。本県では作新学院大が防災士養成講座を毎年開催している。この他、独自で養成講座を開く自治体がある。県内の防災士は今年8月末現在で4302人(うち女性634人)に上る。

 一方で、同会に所属する防災士は174人(うち女性37人)と全体の4%ほど。合格したもののどのように活動すればいいか分からないと悩む有資格者が多いことや、研修などフォローアップの機会が限られていることが課題だ。

 こうした現状を踏まえ、県内の関係機関では防災士のスキルアップや、有資格者のつながりの強化に向けた取り組みを進めている。

 県と県防災士会は2019年度から2年間、地域住民の防災活動の指針となる「地区防災計画」の策定を後押しする事業を展開。災害時のリスクを確認する「まちあるき」や、避難所運営ゲームなどを通じて地域住民に防災の知識やスキルを紹介し、県内24市町のモデル地区の計画策定をサポートした。現在も要望があれば、防災士の派遣費用を補助しているという。

 県危機管理防災局は、県が実施した養成講座で資格を取得した防災士109人を「とちぎ地域防災アドバイザー」に認定。11月に連絡会議を開き、災害時の行動を考えるクイズやゲームを通じてスキルアップを図った。県の担当者は、新型コロナウイルス禍で防災士や自主防災組織の活動が停滞したとして「自主防災組織の活動などを支援し、アドバイザーが活躍できる環境を整えたい」としている。

 宇都宮大地域デザインセンター地域防災部門は、県防災士会と連携しながら学生や有資格者向け教育プログラムを開発し、来年度以降、本格的に実施する方針だ。

防災士の役割や、地域防災力強化について話し合うシンポジウムの参加者
防災士の役割や、地域防災力強化について話し合うシンポジウムの参加者

 防災関係者とのつながりを強める動きとして、同部門は9月に同会メンバー、12月に県内企業や自治体関係者らと意見交換会を実施。防災士として実践したい活動やスキルの習得について活発に議論が交わされた。参加者からは「資格取得後の動き方を教えてほしい」「防災講座に参加すると大学の単位として認められれば、学生も取り込める」など意見が上がった。

 稲葉理事長は「防災士として地域に貢献したい人はたくさんいる。宇都宮大などとともにスキルアップに必要な教育や、防災士のネットワーク化に取り組みたい」と話している。