本県の風土と県民の生活の中で育まれ、受け継がれてきた県伝統工芸品。後継者育成や次世代への継承などを目指し、県が2004年にスタートした「県伝統工芸士」の認定制度も今年で丸20年となる。現在は173人が認定され、県指定58品目の伝統を守る。昔ながらの高度な技術や技法で、工芸品をつくり出す認定工芸士の仕事ぶりや思いなどを紹介する。
細部まで精魂込めて彫られたたけだけしい表情。焼き上げられた鬼瓦は邪気を寄せ付けない迫力がある。
県内唯一の「鬼師(鬼瓦職人)」として活動する。繊細かつ勇ましい模様は、10種類以上の竹や金属のへらを使い分けてつくる。模様付けはすべて手作業で、温度や湿度などにも配慮しながら、素早く描かなくてはいけない。
鬼師の精緻な技術が光るのは、模様付けだけではない。一般的な瓦よりも厚みがある鬼瓦を焼くのが至難の業だという。
「厚みがあると、表面と内部の温度に差ができてうまく焼けないことが多い」。温度調節に細心の注意を払いながら、慎重にじっくりと焼き上げる。一つの鬼瓦が完成するまで、長いときには約1カ月、工房にこもることもある。
1912年創業の「山菊鬼瓦店」の3代目。瓦焼きだけではなく、陶芸や彫刻も学び、鬼師としての腕を磨いてきた。
近年は建築様式の多様化で、屋根瓦制作の依頼は減った。代わりに室内に飾る小さな装飾品の制作や文化財の修復を手がけている。
「大変な作業ばかりですけど、体力が続く限り続けていきたい」。鬼とはかけ離れた優しい表情で笑った。
栃木鬼瓦 佐野市北部周辺などで採取できる良質な粘土を使用。さまざまな災厄から家を守る魔よけとして、一般住宅だけではなく、神社仏閣の屋根にも設置されている。