神奈川県秦野市名古木地区

2月5日の大雪で大山(中央右)など丹沢山塊の山頂部には残雪が見られるが、市街地では確認できなかった=2月7日、秦野市内

神奈川県秦野市名古木地区 2月5日の大雪で大山(中央右)など丹沢山塊の山頂部には残雪が見られるが、市街地では確認できなかった=2月7日、秦野市内

 南岸低気圧の接近に伴い、6年ぶりに神奈川県内全域に大雪警報が発令された5日、秦野市の市街地は雪がそれほど降らなかった。市内在住の読者からも「初めは雪が降っていてもすぐに雨になり、雪が解けてしまう。謎のままでずっと気になっている」との問い合わせが神奈川新聞「追う! マイ・カナガワ」取材班に届いた。丹沢山塊を抱え、暖かい海もない秦野なのになぜ雪が降らないのか探ってみた。

 5日は取材で水無川沿いの市役所にいた。午前11時過ぎには雨が雪に変わり、窓から街中の屋根が一気に白くなったのが見えた。しかし3時間ほどでみぞれに変わり、市街地は「雪景色」とは言い難い状況だった。

 本社からは各地の降雪状況を撮影する指示があり、元映像部の記者としては腕の見せどころだったが、肝心の雪がない。翌朝も大山をはじめ丹沢連山の頂上付近は白く覆われたが、市街地や弘法山(標高235メートル)も遠目からは残雪を確認できなかった。

 一方で雪は横浜中心部の中区で4センチ、郊外の瀬谷区では10センチも積もった。相模原市中央区でも7センチの積雪があったという。

地元市役所職員も分からず

 なぜ秦野では積雪しないのか。市職員に確認しても、明確に答えられる職員は見つからなかった。

 そこで横浜地方気象台に問い合わせると、個人的な見解として職員の森洋(よう)さんが答えてくれた。「今回は南岸低気圧の接近で十分な水蒸気を持った空気が秦野市内にはあったが、暖かい状態で盆地内に残っていたのではないか」

 つまり、冷気を伴った風が北や北東から吹いたが、丹沢の山々で遮られた。そのため盆地にある市街地の地表は暖かく、水蒸気が凍るまでには至らなかったのではないか、との見解だった。

 「降雪には地表の気温が1度未満であることが重要」と森さん。実際、5日の最低気温は午後1時の0・4度だったが、日没直前の同5時は2・3度、最高気温は同11時の5・3度(いずれも市消防本部調べ)と上昇していったことから、各地で降り続いた雪の条件を満たしていなかったことになる。

30年以上積もってない?

 秦野盆地に雪が少ないのはこれで分かった。ただ、読者からは「30年以上住んでいるが秦野市内でどんなに積もっても、名古木で雪が積もっているのを見たことがない」とあった。

 名古木は「ながぬき」と読む。伊勢原市境の善波峠に接する地区だ。確かに現地に住む勤続30年超の市職員に聞くと「交通に支障が生じるほどの積雪の記憶が1、2回程度しかない」と話す。

 これも、先ほどのメカニズムを考えれば分かりそうだ。地図を広げると、名古木地区は東の善波峠を含む低い山に南西を除き囲まれている。

 このことを道祖神や地域史を研究している武勝美さん(87)に聞いてみた。名古木の語源は「山から下った和やかな場所」からきていると説明し、「東から南にかけて善波峠や弘法山が囲む『盆地の中の盆地』とも言える地域」と指摘する。やはり、暖かい空気がさらに滞留しやすい地形だということだ。

 県内唯一の盆地に中心市街地が広がる秦野は東、北、西には大山、三ノ塔、鍋割山など標高1200メートル級の山々、南側は渋沢丘陵に囲まれ、降霜・降雪が少ないとされる。都市部でゲリラ豪雨が報じられる夏には、丹沢山塊で雲がとどまっているような光景も目にしてきた。

 今回もこうした山々が荒天を防いでくれたのだろう。「丹沢の恩恵」に感謝し、その魅力を今後も発信していきたい。(神奈川新聞)