-劇団四季時代の経験で今も生きていることは。
「せりふを一言一言きちんと伝えること。『ぼそぼそ話す』シーンも、本当に聞こえなくては意味がない。声のボリュームだけじゃなく、響きや息の量、抑揚や使うのどの広さ。状況によって演じ分けるのは、修業しないとできない」
-退団から15年が経過した。劇団四季時代との違いは。
「芝居を芝居にみせないこと。演劇は見る人の目線ごとの『カット割り』があり、劇場の大きさや特徴によって伝え方も異なる。経験からどんな演技をするか、選択の余地が増えた。『引き出し』という言葉が嫌い。一番いい芝居は、常に新鮮で空気に触れているものから届けたい」
-大河ドラマ「真田丸」は主人公の叔父真田信尹役、「鎌倉殿-」は源頼朝の側近で鎌倉幕府の頭脳といわれた大江広元役で、三谷幸喜作品に出演した。
「大河は1年間かけて1人の役と向き合える貴重な時間。今でも真田信尹の愛称『叔父上』と呼んでくれるファンがいる。真田信尹は賢いが、大江広元はもっと策士。クレバーで、野心や私情を挟まず、幕府に付いた人物。ドラマで通じ合った北条政子への思いは『慕情』。幕府のよりどころを支え続けたからこそ、生き残った」
「三谷さんはその役者が生きるような、期待を込めた脚本を書いてくれる。『こうしてほしい』を押しつけず、柔軟な考え方をする。小栗旬さんは『これぞ座長』という人柄。スタッフ約100人の名前を覚えたり、おそろいのキャップを作ったり。チームをまとめてくれた。大泉洋さんは出演終了後、『何ですかあのシーン?!』と感想をくれたこともあった」

-印象に残る俳優や共演者、影響のある作品は。
「『ひかりごけ』では、四季の創立メンバーの浅利慶太さんや日下武史さんらと厳しい稽古を重ねた。市村正親さん、山口祐一郎さんの芝居を間近で見たことも印象深い。藤井道人監督の映画に出た時は、周りはほとんど若者たちで、とても新鮮だった」
「これでやれる、という自信は今もない。常に手探りだし『もっとやれる』『ああじゃない、こうじゃない』の繰り返し。満足していないし、初めましての現場が楽しい」
-「銀行強盗-」の面白みは。
「強盗が金品ではなく、人々の大切なものを奪う作品。ファンタジーではあるが、自分の人生との共通点はきっとある。私が演じる刑事は捜査しながら自分自身も被害者である役どころ。ストーリーテラーの1人なので、冷静な部分も見てもらえたら」
「芝居の稽古は地味なことの繰り返し。ステージはきらびやかだが、人間がその日、その時間でしかできない演技を届ける。娯楽だが、空気感も含めた芸術だと思う」