宇都宮市の認可外保育施設「といず」(廃止)で2014年、宿泊保育中の同市、山口愛美利(やまぐちえみり)ちゃん=当時9カ月=が死亡した事件を巡り、佐藤栄一(さとうえいいち)同市長は25日の定例記者会見で、市の所管部署を排した第三者による新たな検証委員会の設置を検討していると明らかにした。遺族への早期の謝罪に向けて「引き続き調整を図りたい」とも述べた。市は事件後、保育施設の指導監督体制の強化を図ったが、遺族への謝罪は実現せず、外部有識者による検証委も開かれていなかった。事件は26日で10年。道半ばにある再発防止の歩みが前進するか注目される。

 市には事件前、子どもをひもで縛るなど施設の虐待を疑う通報が寄せられていたが、市は抜き打ち調査でなく施設に事前通告した上で訪問していた。昨年6月に確定した損害賠償訴訟の判決は、市の注意義務違反と愛美利ちゃんの死亡の因果関係を認定した。

 市は事件後、保育状況の指導監督体制の強化を図ってきた。15年度から、午後8時以降に開所している認可外保育施設への抜き打ちの夜間立ち入り調査を実施。17年度に認可、認可外を問わず抜き打ちで訪問する巡回指導支援を始めた。

 16年度には不適切な保育の情報収集を目的に専用ダイヤルを設置。23年度は109件の情報提供があった。市は専用ダイヤルや担当課などへの情報提供を元に昨年度、5件の特別指導監査を行い、うち4件で行政指導や行政処分を実施している。

 一方、佐藤市長は遺族に謝罪し、外部有識者の検証委を開催する方針を示してきたが、いずれも実現していない。

 市長は会見で、検証委について遺族から、市子ども部以外が事務局を所管することや県外の外部有識者を選任することなどの要望を受けていると説明。「速やかに第三者による客観的な検証を行いたい」として、同部を関与させず医師や学識経験者、弁護士など県外の外部有識者のみで構成し、本事件の検証を専門に行う新たな検証委の設置を検討しているとした。

 遺族への謝罪については「早期に実現できるよう引き続き調整を図りたい」と述べた。

【といず事件】 宇都宮市の認可外保育施設「といず」(廃止)で2014年7月26日未明、宿泊保育中の山口愛美利ちゃんが熱中症で死亡した。熱帯夜が続く中でエアコンを使わず、愛美利ちゃんを放置し死亡させたとして16年12月、保護責任者遺棄致死罪などで元施設長の懲役10年が確定。両親による損害賠償訴訟も23年6月、市と施設に賠償を命じる判決が確定した。