栃木市出身の直木賞作家中村彰彦(なかむらあきひこ)さんの新刊「史談集 沖田総司は黒猫を見たか」が、中央公論新社から出版された。奇譚と逸話を満載した、月刊誌「WiLL」に連載中の歴史エッセーなど60編を収めた。エッセーは、歴史小説・時代小説を中心に執筆する中村さんの豊富な知識を背景としつつ、1編約4ページと初心者にも読みやすい。
ライフワークの「長い書きもの」に加え、「月々少なくとも2編の短い歴史エッセーを書く」生活だという中村さん。そのエッセーは、東京新宿・花園神社の社報「花その」と「WiLL」にそれぞれ連載中のシリーズに数えられる。
表題作は1996年発表の歴史エッセー集「乱世に生きる」に収録した旧作だが、「小品ながら愛着のある文章なのでこのまま眠らせてしまうのは惜しい」と収録。子母沢寛(しもざわかん)著「新選組物語」にある「総司ファンの女性たちに万斛(ばんこく)の涙を注がせてやまない“総司と黒猫”の逸話」を取り上げ、史実を挙げてユーモアを含む疑問を投げかける。
エッセーには今日的なトピックも織り込む。昨今の猛暑を踏まえ江戸時代の大名たちの奇妙な涼み方や、当時の性的少数者に関する逸話を紹介。「日本史の流れに最大の影響を与えた疾病」として、1858(安政5)年に江戸で大流行したコレラの猛威にも触れた。病気をもたらしたとされる外国人を排斥する動きが国情不安を招いた歴史は、身につまされる。
四六判、320ページ。2035円。