数十万から数百万匹に1匹しか見つからないと言われている雌雄モザイク(両性具有)の昆虫。そんな希少な特徴を持ったノコギリクワガタを芳賀町芳志戸(ほうしど)、採集家桑木敏夫(くわきとしお)さん(58)が今夏、同町内で発見した。羽などにも傷がなく、専門家も「モザイクの特徴がしっかり出ていて個体として見事」と高く評価する。

雌雄モザイクの個体は、一般的に性染色体レベルでの異常や体細胞の突然変異が原因で生まれる説が有力とされる。昆虫などの節足動物では比較的その存在が知られていて、クワガタの場合、胴体の中央で雄と雌に分かれる。
桑木さんは小学生時代から昆虫採集を始め、現在は保育園や愛好家に取った昆虫を配ったり、一部を販売したりしている。6~9月が採集のシーズンで、雨の日以外は午前4時に起床。芳賀郡北部の雑木林などを数カ所巡り、ミヤマクワガタを中心に年間約4千匹を採集している。

今回見つけたノコギリクワガタは7月28日午前9時ごろ、いつも見回りをしている芳賀町内の雑木林にいた。桑木さんは「最初は『角が短い奇形かな』とも思ったが、違っていた」と振り返る。体の右半分は角が大きな雄、左半分が雌の特徴を持つ。体長は雄の部分で4・5センチと標準的なサイズだという。
採集後は昆虫に詳しい真岡市在住のフリーカメラマン野澤亘伸(のざわひろのぶ)さんや、専門誌「BE-KUWA」(むし社)の土屋利行(つちやとしゆき)編集長に個体を見せ、お墨付きを得た。野澤さんは「これだけ完成度の高いモザイク個体は見たことがない」と驚きを隠さない。
現在、その個体は土屋編集長の手元にあり、「モザイク個体の角は雌に近くなることが多く、雄の角は小さいことが多い。しかしこの個体は大きな角がそのまま残っている。レア中のレア」と評価した。
大きな発見をした桑木さんだが健康上の理由から、今夏で昆虫採集をやめる予定でいる。「偶然が重なった。こんなきれいな個体を最後に見られて本当に良かった」と有終の美に満足そうな表情を見せていた。