6月中旬、日光市足尾小中学校の6年生、羽尾駿人(はねおはやと)君(11)の家を訪ねた。群馬県桐生市へつながる、わたらせ渓谷鉄道(わ鉄)の終点、間藤駅近く。

 「もうすぐ来るよ」

 リビングに案内されると、駿人君が興奮気味に窓の外を指さした。程なく、列車が軽快に走り抜けるのが見えた。

 夢は「わ鉄の運転士」。2歳ぐらいの頃、家族と乗ってとりこになった。毎週のように乗車し、運転士とも仲良くなった。

休み時間に校庭で遊ぶ駿人君(手前右)。将来の夢は「わ鉄の運転士」という=13日午後、日光市足尾小中学校
休み時間に校庭で遊ぶ駿人君(手前右)。将来の夢は「わ鉄の運転士」という=13日午後、日光市足尾小中学校

 「この家を買ったのも、息子のわ鉄好きが理由の一つなんです」。母綾子(あやこ)さん(40)は、いとおしそうにわが子を見つめた。

 駿人君、綾子さんと父伸一(しんいち)さん(52)の3人暮らし。両親2人も足尾出身で「足尾を離れることは、一度も考えたことがない」。買い物する場所は少ないが、今はネットショッピングがあるから不便は感じない。駿人君も「足尾が大好き」。落ち着いた雰囲気が気に入っているという。

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 同校は2022年度、足尾小と足尾中が併設され、一貫校となった。児童18人、生徒14人。足尾高は07年に閉校しており、今は足尾で唯一の学校だ。

 下野新聞社は5月、足尾小中学校の全児童生徒、保護者にアンケートを行い、足尾に対する思いなどを聞いた。

 「自然が豊かで住んでいる人がみんな優しいから」。地元が好きという小学生の1人は理由をそう書いた。好きな場所として、コロッケが評判の地元の精肉店を挙げた中学生も。「大人になっても住み続けたい」と答えた中学生の理由は「足尾が大好きだから」。皆、足尾に愛着を感じている。

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 給食を食べ終えた子どもたちが靴に履き替え、昇降口から一斉に校庭へ飛び出してきた。6月中旬、平日昼下がりの同校。おにごっこ、サッカー、鉄棒…。休み時間で思い切り遊ぶ子どもたちの中に、友達と話す駿人君の笑顔があった。

 将来、足尾がどんなまちになってほしいか-。駿人君に尋ねた時のこと。少し悩んだ後、明るい声で答えてくれた。

 「今と同じがいいです」

 大切な家族、友達、学校行事などに協力してくれる優しい地域の人々、憧れの鉄道。大好きな足尾が、ずっと変わらないでほしい。