わたらせ渓谷鉄道足尾駅から徒歩約5分。6月上旬の日曜日、足尾地区更生保護女性会の古木雅子(ふるきまさこ)さん(69)は、開店前の仕込みに追われていた。
「メニューは皆で考える。何人来るのか分からないから、あんばいが難しい」
店の名は「わたらせ茶屋」。同会が4月にオープンさせた。毎週土、日曜日の昼に開き、日替わりランチを提供している。
この日のメニューはおにぎり、スープ、おひたし、甘酒などのセット。値段はいつも同じ500円。子どもは特別無料にしている。
昼前に開店すると、近所の小学生親子や市外のサイクリング客らが次々とやって来た。早くも、常連客もできた。
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子どもを無料にしているのには訳がある。
茶屋の構想は、地元で2022年11月に開かれたイベントがきっかけだった。同会が子どもたちにシチューや果物を振る舞うと、近所の人が集まった。
「せっかくなら子どもが気軽に来られるような、こういう場を恒久的にできないかなって」。山田久子(やまだひさこ)会長(70)は振り返る。
思いついたのが、かつて障害者が働く喫茶店だった日光市の建物。交渉し、無償で借り受けた。

子どもが集まる場所は23年3月まで、他にもあった。同市の地域おこし協力隊員が15年に始めた「あしお民立こども大学」。若者らが小中学生に勉強を教えていた。だが指導者がいないなどの理由で活動を終えた。
山田さんは大学のことも気にかけていた。「だから今度はここに来て、ご飯を食べてもらいたい」
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茶屋の近くで独り暮らしをする高齢女性は、いつも散歩のついでに寄る。「一日中、誰とも話さないこともある。それだと気がめいるから」。女性会のメンバーや客と話すことが、ささやかな楽しみだ。
過疎化が進み、65歳以上の高齢化率は6割近い足尾。日本最古の生協の一つとされ、長らく住民のよりどころだった「足尾銅山生活協同組合三養会(さんようかい)」は16年、惜しまれつつ解散した。
山田さんは地域の変化に寂しさを感じつつ、前を向く。「たとえ人口が減っても、助け合うことで共同体は維持できる」。普段からコミュニケーションを取り、関係性を築くことが必要だと考えている。
「ここを交流の場に」。わたらせ茶屋が、人と人を結ぶ場になるよう願っている。