「大谷石文化」の日本遺産認定を祝った2018年5月のセレモニー。認定は大谷再興のきっかけとなった

 ギョーザやカクテルと並び、宇都宮市を代表する地域資源の大谷石。素朴で温かみのある風合いは市民の暮らしに溶け込んでいる。活況を呈する「石の里」だが、今に至る道のりは平たんではなかった。

 大谷石は、市北西部の大谷町周辺で産出される軽石凝灰岩の石材を指す。軽くて軟らかいため加工しやすく、耐火性にも優れている。「ミソ」と呼ばれる黒茶色の斑点模様が特徴だ。

 明治時代に建材として関東一円に販路が拡大する。米国人建築家フランク・ロイド・ライトが手がけた帝国ホテル(東京)の旧本館「ライト館」は“東洋の宝石”と称された。

 最盛期は1970年代前半。首都圏の大型分譲地の擁壁などに使用された。採掘事業場は約120カ所、年間出荷量は約89万トンまで増えた。

 ところがオイルショック以降、需要が減少。89年の大陥没が追い打ちをかけ、業者数、出荷量は激減した。観測や埋め戻しなど安全確保対策は現在も続く。

 2010年代に入り、薄日が差し始めた。地下採掘場跡がロケ地として脚光を浴び、市も振興策に着手。18年、「大谷石文化」が日本遺産に認定された。市大谷振興室の松本剛(まつもとたけし)室長は「負の遺産を有効活用し、前向きな機運が地元で盛り上がり出した」と振り返る。飲食店の立地も相次ぎ、活気が戻った。

 内装材や装飾品など、用途も広がっている。21年の東京五輪のメイン会場となった新国立競技場VIPエリアのカウンターに採用されたことは記憶に新しい。

 11月20日には旧大谷公会堂を中核施設とする「大谷コネクト」がオープン。かつて地元住民に愛された施設は、周遊拠点としてよみがえった。「上質な観光地づくりに官民一体で取り組む」と松本室長。観光を新たな柱に、復興の道を歩み続ける。