下野新聞は栃木県の地元紙として、宇都宮美術館の開館前から、同館の作品収集などの開館準備の様子を広く紹介してきました。また、1997年の開館以降も、その展覧会情報をいち早く紙面で取り上げ続けています。
今回、同館で開催されている、開館25周年記念 全館コレクション展「これらの時間についての夢」展は、「時間」をテーマとしています。そこで、12月1日から15日まで、毎日1回ずつ、このページ内で、本紙の宇都宮美術館の記事を再度掲載し、同館の歩みを振り返ります。
これ夢展 担当学芸員の一言
いわゆるシャガールらしいシャガールではない≪静物≫。その魅力と希少性が紹介されている記事です。
下記は1997年1月17日に掲載された記事です。

これがあのシャガールかー。幻想画家としてのシャガールを知る人は「静物」を前にして、やや驚きを感じるかもしれない。
「静物」はシャガールがパリに住んでいた時代に二点しか描かなかった静物画のうちの、現存する唯一の作品。若きシャガールが描いた、その後の“シャガール絵画”の原点ともいえる傑作だ。
シャガールは一八八七年、現在のロシアで生まれた。二十三歳のころ芸術の中心・パリヘ移り、彫刻家や画家らとともに「ラ・リュッシュ(蜂の巣)」と呼ばれる共同アトリエで絵画を描く。「静物」はこのパリ時代に猫かれた。
強い色彩と構成を持つ「静物」。青色と朱色の対比が美しく、青から朱が浮かび上がってくるようだ。魂の通り道として朱の帯を描くことが多かったシャガール。朱の色づかいにはシャガールらしさが表れている。また当時、全盛だったピカソやブラックのキューピズム(立体派)の影響もうかがえる。
日本でのシャガール人気は高く、国内の美術館で数多くの作品を見ることができる。しかしパリ時代の作品に出合えるのは、国内ではこの美術館以外にはほとんどない。
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宇都宮市制百周年を記念して三月二十三日に開館する宇都宮美術館。市がこれまでに収集した約千七百七十点の作品の中から代表作をシリーズで紹介する。