下野新聞は栃木県の地元紙として、宇都宮美術館の開館前から、同館の作品収集などの開館準備の様子を広く紹介してきました。また、1997年の開館以降も、その展覧会情報をいち早く紙面で取り上げ続けています。

 今回、同館で開催されている、開館25周年記念 全館コレクション展「これらの時間についての夢」展は、「時間」をテーマとしています。そこで、12月1日から15日まで、毎日1回ずつ、このページ内で、本紙の宇都宮美術館の記事を再度掲載し、同館の歩みを振り返ります。

 

これ夢展 担当学芸員の一言

初代館長として、1997年(平成9年)から2017年(平成29年)3月の20年間に渡って初代館長を務めた谷新氏のインタビュー記事です。

下記は1997年1月13日に掲載された記事です。

人ひとマンデーインタビュー
宇都宮美術館初代館長 谷新さん(49)
いよいよ3月に開館ですね
市民が訪れる施設に
ゆかりの作品も常設展示
 

 宇都宮市制百周年を記念して三月二十三日、宇都宮美術館が同市長岡町に開館する。宇都宮市は美術館建設とともにこれまで約千七百七十点の作品を収集、企画展「アムステルダム市立美術館収蔵作品展」を誘致するなど開館に備えてきた。昨年九月、準備に携わってきた館長予定者の市政顧問・高見堅志郎氏が死去したため、一月一日付で初代館長に就任した谷新氏に聞いた。

 -館長就任の抱負は。全国的にも四十代の館長は珍しいそうですね。

 「高見先生の意向をくんで運営し、宇都宮に存在する美術館として市民が誇りに思い、気軽に来館できる施設にしたい。公立美術館長は六十代以上で、確かに四十代は異例。ほかにも候補者はいたようですが、既に学芸員として準備にかかわり、方向性を理解しているとして任されました」

 -作品を着々と収集してきましたが、宇都宮美術館の見どころは。

 「美術館は作品だけが良くても駄目。受付、レストランを含め、市民が気持ち良く利用できるようにしたい。美術に興味のない市民にも共感を得られるよう、学芸員の解説も工夫する。作品ではやはりマグリット作の『大家族』でしょう。これはミュージアムグッズにも生かしたい。もう一点はシャガールの『静物』。日本の美術館にシャガールは多いのですが、一九一〇年代の作品はこれだけ。世界的にも貴重で、ニューヨーク近代美術館(MOMA)から貸し出し依頼が来ているほどです」

 -宇都宮は文化不毛の地といわれます。県外から来られてどう感じられますか。

 「決してそうは思いませんね。むしろ有り余るほどの伝統がある所と感じます。でも北関東の交通、経済の要所であるだけに、この地を生涯、最期まで愛したというアーティストは少ない。美術館もできるのだから文化不毛などと言っているわけにはいきませんね」

 ‐宇都宮美術館の地域とのかかわりは。

 「海外作家だけでなく。宇都宮ゆかりの作家の作品を常設展示します。現在は物故者中心ですが今後は現役作家の作品も収集し、企画展も開きます。また教育普及も力を入れている分野。担当者を置き企画展を考えるほか、市民組織の『友の会』も立ち上げます」

 ‐作品収集は続ける予定ですね。

 「現在の収集状況ではまだまだ穴だらけ。日本の近代の著名な作家の作品はないし、戦後の流れも充実させたい」

 ‐日玉作品の「大家族」は六億二千万円で購入し価格論争が起きました。どう見ていますか。

 「一部から批判が出ましたが、金額だけの議論はどうかと思います。美術品の価値や五十年、百年のターム(期間)に立った作品の位置付けを度外視した論争は美術品の考え方を弱めてしまう」

 -全国の地方美術館が目玉作品を集める状況への批判もあります。

 「目玉作品を買いあさる風潮は良くないと感じる。しかし行政の美術館の場合、だれも入らないのは大きな問題で、魅力ある作品や企画が要求されます。山梨県美術館のミレーも購入当時は価格が高いと批判されたが今は観光バスが止まるほどです。『大家族』もこうなる可能性は高い」

 ‐絵画の魅力は何でしょう。

 「素晴らしい芸術は抽象も具象もなくだれにでも感動を与えてくれる。MOMAで一枚の絵を何時間も見続ける人を見掛けたことがあります。絵は生活の雑事を忘れさせ、気持ちをさわやかにしてくれるもの。宇都宮美術館の絵も、そうあってほしいですね」