下野新聞は栃木県の地元紙として、宇都宮美術館の開館前から、同館の作品収集などの開館準備の様子を広く紹介してきました。また、1997年の開館以降も、その展覧会情報をいち早く紙面で取り上げ続けています。

 今回、同館で開催されている、開館25周年記念 全館コレクション展「これらの時間についての夢」展は、「時間」をテーマとしています。そこで、12月1日から15日まで、毎日1回ずつ、このページ内で、本紙の宇都宮美術館の記事を再度掲載し、同館の歩みを振り返ります。

 

これ夢展 担当学芸員の一言

当館では、創作版画の作品収集や研究も行っています。恩地孝四郎、川上澄生など著名な作家だけでなく、『村の版画』や『刀』といった宇都宮ゆかりの版画誌の収蔵や研究も進んでいます。

下記は2000年10月31日に掲載された記事です。

 

 

創る喜び、集まる仲間

宇都宮に刻まれた創作版画運動の軌跡

「版画をつづる夢」展

地元「版画誌」など紹介

 大正末期から昭和初期にかけ、宇都宮の片隅で、版画を創(つく)り出す喜びを見いだした人々の、ささやかな、しかし、熱い活動があった。姿川村の小学校教師たちは版画誌「村の版画」を発刊、旧制宇都宮中学の生徒たちは同「刀」に夢を乗せた。いずれにも、川上澄生の温かい導きがあった。「宇都宮に刻まれた創作版画運動の軌跡 版画をつづる夢」(下野新聞社主催)が十一月三日、宇都宮美術館で始まる。十二月二十四日まで。

 今世紀初頭、ヨーロッパの「表現主義」の表現手段として脚光を浴びたのが版画だった。日本へ渡った版画熱は、伝統的に分業化されていた絵、彫り、摺(す)りを目分でこなす「創作版画」のスタイルを生み出し、運動として全国に広がっていった。

 地方で起きた最も初期の運動が、一九二五(大正十四)年に創刊された「村の版画」。旧制宇都宮中学に赴任した澄生が、姿川村(現宇都宮市)の篠崎喜一郎宅に下宿したことがきっかけで、篠崎が勤めた姿川尋常高等小学校の教師たちの間に版両が広まる。ただ、メンバーは素人集団。創刊の中心メンバーの一人、池田信吾は「絵の下手なものが進む道」と澄生から励まされ、転勤による中断を挟んで八年間も発行し続けた。池田らは学校教育にも版画を取り入れていった。

 「刀」(第一期)は、「村の版画」に触発された旧制宇都宮中学生の長谷川勝三郎さんが中心となり二八(昭和三)年に創刊。「村の版画」との連続性はほかにもある。「刀」に加わった安西七郎は、小学生時代に「村の版画」のメンバーから版画の手ほどきを受けている。

 「村の版面」が建物や村の風景を題材にしていたのとは対照的に、「刀」は空想世界、外国の風景、スポーツなど多種多様なモチーフで、若者らしく伸び伸びと描かれた作品が収められている。五年間で十三巻続いた「刀」からは、後に中央の「新版画集団」結成に参加する佐伯留守夫らが巣立っていった。

 今回の展覧会は、「村の版画」「刀」の作品や全国各地の二十三種類の版画誌計六百四十点を展示する。

 浜崎礼二学芸員は「版画の調査はまだ緒に就いたばかり」と情報の提供を呼び掛けている。

 午前九時半から午後五時(入館は午後四時半)まで。月曜日休館。十一月五日午後二時から町田市立国際版画美術館の青木茂館長による講演会が開かれる。問い合わせは問美術館☎028・643・0100。